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有明海環境悪化機構究明と環境回復のための提言


有明海環境悪化機構究明と環境回復のための提言

有明海環境悪化機構究明と環境回復のための提言

日本海洋学会海洋環境問題委員会

「海の研究」10: 241-246 (2001)

 日本海洋学会海洋環境問題委員会では、ノリ養殖の不作により社会的関心の高まった有明海の現状と諌早締切水門の開口に関する環境への影響について、有明海全体の環境修復を目指す観点からの検討を進めた。その結果を提言として2001年3月23日に発表したので、ここに報告する。

1. 要旨

(1)有明海におけるこの冬のノリの不作ならびに近年の水産資源の急激な減少は、有明海の生態系の急激な劣化を警告するものである。有明海は漁業関係者のみならず、そこを生息場とする生物全体にとって極めて重要な内湾であり、環境保全回復策の検討と実行が急務である。

(2)有明海の環境回復のためには、まずその環境変化の実態を把握し原因を究明する必要があり、「有明海環境回復に向けた総合調査研究体制の確立」が不可欠である。そのなかで「諌早湾閉め切りと干拓」は環境への影響が大きいと考えられ、「閉め切りと干拓」の環境影響調査と環境修復策の検討が重点課題である。

(3)有明海の環境変化原因究明の要点として既存資料調査、現場調査あるいはシミュレーションにより、海岸・海底地形、潮位・潮流、水質、底質、赤潮発生状況、干潟や海底のベントス現存量、漁獲等の現状と近年の変化を調査し、そのうえで有明海の物質循環と生物生産の特性を把握し、その特性に対する人為的影響を評価する必要がある。

(4)諫早湾の再生は有明海の環境回復において重要な検討課題である。現状の水門開口にあたっては周辺海域の一時的環境悪化が懸念され、災害の可能性についての指摘もある。またかつて干潟であった干拓地は乾燥と人為的改造が進んでおり、干潟再生に向けた事前の修復策も検討課題である。一方、対策の遅れは再生の遅れとなる。したがってこれらの輻輳する課題について、有明海環境悪化の原因究明と平行して効果的な対応を早急に検討する必要がある。

(5)今後の調査研究で得られたあらゆる情報を、調査研究に携わった組織ならびに個人の責任においてできるだけすみやかに公表し、有明海の環境回復に向けた学際的、社会的議論の進展を計るべきである。

(6)有明海の環境回復に関する調査研究は、海洋研究者に与えられた社会的重要課題ととらえ、本委員会は内部に「有明海問題検討専門委員会」を設け、今後ともこの問題に積極的に取り組むとともに、環境回復に向けた調査研究に協力する。

2. 提言の背景

 日本海洋学会海洋環境問題委員会は、東京湾三番瀬埋立、島根県中海本庄工区干拓、伊勢湾中部国際空港建設など、日本沿岸の環境に大きな影響を与える開発に対し、環境影響評価が科学的に行われることを願い、調査や解析のあり方について検討し、社会的提言を行なってきた(日本海洋学会環境問題委員会 1993, 1996, 1999;日本海洋学 1999)。また有明海諌早湾干拓事業についても、その環境ならびに環境アセスメントの問題点に関する議論を行ってきた(日本海洋学会 1999;風呂田ほか 1999)。その背景は、わが国の大規模な沿岸開発は海洋環境に与える影響が極めて大きく、開発の環境への影響を科学的に調査検討することが、沿岸環境保全と開発後の環境回復に不可欠と考えるからである。
 このような情勢のなか、今年の冬のノリの凶作を契機に、諌早湾締切の影響を含む有明海の環境問題が一挙に社会問題化した。農林水産省は「有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会」を設置し、締切の影響を含むノリ不作の原因究明の検討を開始した。社会資産として有明海の環境回復への取り組みは急を要する社会的課題であり、当委員会としても海洋科学に携わる専門家集団としての立場から、有明海問題の原因と今後の調査課題の検討結果を取りまとめ、提言として発表することにした。この提言が有明海の環境問題の今後の議論に寄与することを願ってやまない。

3. 「有明海環境回復に向けた総合調査研究体制の確立」と「諌早湾締切水門開放の検討」

 今回問題になったのはノリの凶作であるが、この間のアサリ(佐々木 1998)、最近のタイラギ、アゲマキなど(新聞報道)漁業資源とゴカイなどのベントス全般の激減(東 2000)、さらには東京湾や伊勢湾等の富栄養内湾でみられるような赤潮の発生頻度の増加と長期化ならびに貧酸素水塊の形成などを見ると、有明海の環境が近年大きく変化し、生物生産機能が全般的に劣化したと想定される。したがって、有明海の環境問題は単にノリ養殖の問題にとどまらず、有明海全体の生態機能劣化の視点で捉える必要があり、有明海環境回復に向けた海洋物理、化学、生物学の広い分野にまたがる総合調査研究体制の早急な確立が必要である。
 また締め切られた諌早湾の開放は、後述のように潮汐、流れ、水塊構造、生物生産機能の面で湾全体の環境回復をもたらすと考えられるが、水門開放による一時的な環境悪化の可能性も高く、また防災面で危惧する意見もあり、開放にあたっての環境への影響の最小化と災害の防止を考慮したうえで、諌早湾環境回復に向けた効果的対応手順の検討が不可欠である。

4. 考え得る有明海の特徴と環境変化の要因

(1)有明海生態系の特徴

 有明海は長崎県島原半島と天草下島の間の早瀬瀬戸以奥の約1,700_の内湾で、平均水深は約20mと浅い。湾奥や中央部東側は泥質または砂泥質となっている。
 有明海の特徴は潮汐による干満の差が非常に大きいことである。このため潮流による海水の撹拌が大きく、表層水中の酸素が海底まで満遍なく供給され、豊かなベントスが養われる。また、潮流により底質の砂泥分が巻き上げられ、その堆積により沿岸に広大な泥質のガタ干潟(ムツゴロウ等の貴重な生物群集の生息場)、その沖に砂質の洲(アサリ漁場)が形成される。さらに、強い潮流による密度成層の破壊、泥分の巻き上げによる透明度の低下、干潟・浅瀬のベントス(底生生物)による植物プランクトンの採食分解と浄化作用(Cloern 1991、佐々木 1998、青山 2000)があり、これらの機構によって赤潮(植物プランクトンの大増殖)の発生が押さえられる。また、懸濁した泥分粒子は水中の栄養塩類や有機物を吸着し、粘土起源デトリタスを形成し、水中の動物プランクトンや海底のベントスの重要な餌となっている(佐藤・田北 2000)。このような機構のなかに陸域からの適度な栄養供給が続き、有明海の豊かな生態系と漁業生産が支えられていたと考えられる。

(2)潮流等の物理環境の変化

 湾奥における大潮時の干満差は5mを超える。この有明海における大きな干満差は、有明海の固有振動(静振)周期が月による潮汐のそれに近く、有明海の水位変動が共振に近い状態にあったことによる可能性が高い(海上保安庁水路部 1974、井上 1985)。ところが、有明海では1980年以降湾奥部の干満差が減少傾向にある(佐藤・田北 2000)。1980年以降、熊本港開発をはじめ、沿岸の埋め立て、筑後川などの河口堰建設が進められてきた。これに1991年の雲仙・普賢岳噴火が排出した土石の流入も加わる。これらはいずれも満潮時における海水の進出域を狭め、有明海の固有振動周期を短かくする。したがって、こうした開発が進むほど有明海は共振状態から外れ、干満差は減少すると考えられる。これまでの開発に有明海面積の2.1%にあたる 35.5_の諫早湾閉切が加わることによって、干満差が徐々に減少する段階から急激に減少する段階に入った可能性が考えられる。
 また、農業、工業、都市用水のための取水によって河川水量が減少し、海水交換に重要な役割を果たす密度流が弱まり、富栄養化に拍車をかけた可能性も考えられる。さらに、近年の暖冬傾向が冬季の赤潮発生に影響している可能性も考えられる。

(3)チッソ、リン等の流入負荷増大と埋め立て等による浄化力の喪失

 筑後平野の開発と人口増等によって、近年有明海に流入するチッソ、リン等の負荷は増大したと考えられる。また、沿岸の埋め立てや諫早湾の閉め切りによって干潟・ 浅瀬の浄化力が減少してきた。例えば、三河湾一色干潟1,000ヘクタールの浄化力は日量チッソ1.5トン、リン0.3トンと見積もられている。諫早湾閉め切りによって失われた干潟・浅瀬は3,500ヘクタールであるから、一色干潟の浄化力から単純に計算すると失われた諌早湾の浄化力は日量チッソ 5トン、リン1トンとなる。諌早湾は一色干潟とは異なった環境特性を持つため浄化力にも差はあるであろうが、この程度の浄化力が失われた可能性が高く、これは結果的には有明海にとっての負荷増加となる。このような浄化機能を持つ干潟、浅瀬の減少が、有明海の富栄養化を進行させた可能性がある。

(4)二枚貝等による懸濁物除去能力の減少

 アサリ等の二枚貝による懸濁物除去能力は極めて大きいものがある。三河湾の赤潮発生延べ日数が干潟・浅瀬の埋め立てとともに急激に増大したことが知られており、 この原因として干潟・浅瀬に生息していたアサリ等の二枚貝による海水濾過と植物プランクトン除去能力の減少があげられている。三河湾の埋め立てで失われた面積はほぼ1,000ヘクター ルであるが、ここに生息したアサリ等の海水濾過量は三河湾の海水交換量に匹敵する規模と見積もられている。有明海の場合、アサリ漁獲の減少は諫早湾閉め切りよりもかなり早い時期に起こっており、そのことがこの間の赤潮発生や全般的環境悪化の背景にあると考えられるが、同時に3,300ヘクタールに及ぶ諫早湾閉め切りによって失われた膨大な二枚貝をはじめとするベントス量を見れば、それらが有明海に与えた影響も大きいことが予想される。

(5)卵仔の減少

干潟・浅瀬は多くの生物の再生産の場である。ここから水産資源を含めた多くの生物の卵稚仔が周辺に供給される。3,500ヘクタールに及ぶ諫早湾の消失は、この面でも少なくない影響を与えた可能性がある。

(6)有害物質

 最近有機スズやダイオキシン等の環境ホルモンが海産動物に影響を与えることが知られるようになっている。内湾は海域ならびに陸域で発生した各種の汚染物質が集約される場所であり、有害物質の影響についても考慮する必要がある。

5. 有明海環境変化原因究明の要点

(1) 潮位・潮流の変化の検証

 ・既往資料の活用
 宇野木・小西(1998)は、1960年代から近年までの東京湾、伊勢湾および大阪湾の潮流に関する既往資料を解析し、潮流が小さくなってきたこと、その原因が埋立による湾内面積の減少にあること、また埋め立てによる潮流の減少が富栄養化を強めることを示した。有明海についても既往資料を掘り起こし、潮位や潮流の経年変化に関する解析を行うことが必要である。また、有明海の面積の経年変化を割り出し、潮位や潮流と比較することも必要である。

 ・現地観測
 過去には気象庁(1974)や海上保安庁(1974)などが流れを調査し、西海区水産研究所の井上(1980)も多数の船による広域で同時的潮流観測を実施している。これらの既往資料と比較するために、現在の有明海の流れを改めて調査する必要がある。宇宙開発事業団の鳥羽ほか(1998)は潮受け堤防締め切り前(96年12月)と後(97年5月)の人工衛星ADEOS画像を用い、締め切り前後の潮流の特徴について解析している。こうした試みも改めて行われる必要がある。

 ・シミュレーション
 熊本新港、筑後川大堰、三井三池炭坑の海底陥没、雲仙普賢岳噴火による大量の土砂・石の流入、諫早湾干拓事業などによる地形変化を組み込んだ有明海の流動シミュレーションを行い、水位や潮流に対する地形変化の影響を究明する必要がある。

(2)赤潮発生機構の解明

 ・既往資料の活用
 有明海には赤潮は発生しないと考えられてきたが、昨年の夏には大規模赤潮が発生し、今年の冬も大型珪藻のRhizosolenia赤潮がノリ養殖に重大な被害を与えた。沿岸域では、珪藻の生長による珪酸塩の枯渇がリンや窒素との栄養塩類バランスの変化をもたらし、結果として珪藻の増殖が押さえられる代わりに珪酸塩を必要としない鞭毛藻が増殖することが知られている(Tsunogai & Watanabe 1983)。したがって、各栄養塩濃度とそれらのバランスの変化に留意したうえで、赤潮の発生(種組成、規模、頻度など)を含む植物プランクトン増殖と淡水流入量、気温、水温、塩分、日照、水中光度、成層構造、各種栄養塩濃度、透明度などに関する既往資料を集め、それらの対応関係から植物プランクトンの増殖機構を推察することが必要である。

 ・現場観測
 赤潮を含む植物プランクトンの生長には栄養塩類のほかに、海洋構造(流れ、成層構造など)、光、水温など物理的環境要因も影響を与える。したがって、植物プランクトンの現存量とそれに関わる環境要素を現場観測し、その結果を積み上げ、それらの関連を解析することが必要である。また、底泥のコアサンプルを採取することによって過去の赤潮発生状況の情報が得られる可能性も指摘されているので、検討する必要がある。

(3)浮泥濃度

 ・ 既往資料の活用
 有明海は海水中の浮泥含量が極めて高い内湾であり、先述のように浮泥含量の変化は植物プランクトンの増殖、栄養塩類や有機物の動態、干潟の底質環境など有明海の生態機能に重要な影響を与えていると推測される。代田(1982)は現場での浮泥濃度測定と対応させることによりランドサットの画像解析との対応により、湾全体の浮泥濃度分布を求めている。このような浮泥濃度調査結果を集め、長期的ならびに短期的変動傾向をまとめ、その変動要因を解析する必要がある。

 ・現場観測
 諫早湾では年約5cmの潟土が堆積していた。その供給は本明川からの供給に加えて、菊地川や筑後川から供給された浮泥が有明海の反時計回りの流れによって供給されていたと推定されるので、諫早湾に堆積できなくなった浮泥の行方を明らかにすることも重要な課題である。また諫早湾堤防内の調整池から流出する浮泥の分布実態の把握も必要である。
 潮汐周期に応じた現場調査を行い、潮流、地形と対応した分布状態の把握が必要である。また、それらの結果により湾全体や干潟、河口部での浮泥輸送機構の実体を解明する必要がある。それらの結果により湾全体や干潟、河口部での浮泥輸送機構の実体を解明する。

(4)溶存酸素濃度

 ・既往資料の活用
 底層の溶存酸素濃度はベントスの生存に重要な影響を与える。海水が停滞し、貧酸素化が生じいている場合には、海底からわずかな距離で溶存酸素濃度は大きく変化する。したがって海底からの距離1m以内の底層水中のデータを中心に分析する必要がある。そのうえで、溶存酸素濃度の長期変動傾向を、開発行為に伴う地形改造、雲仙普賢岳の土石流流入などの影響を考慮しながら、季節、地形、潮汐、潮流など底層水の動態と関連づけた分析を行う。

 ・現場観測
 底層水の溶存酸素濃度分布の季節変化を湾全域で調査し、貧酸素水塊形成海域においては形成された貧酸素水の挙動を把握する。このなかで貧酸素水塊ができやすい浚渫や陥没窪地の存在を重要視する必要がある。そのうえで有明海の貧酸素水形成機構を明らかにするには、後述するように物質循環機構に関する研究も必須である。

(5)ベントス現存量変化と浄化機能変化の検証

 ・既往資料の活用
 ベントスによる水中懸濁物の摂食は、海域の有機物浄化に大きな影響を与えている。特に干潟海域においては、満潮時に海水とともに干潟に侵入する植物プランクトンは二枚貝類などの懸濁物食者に取り込まれ、水中から除去、浄化されている。したがって、諌早湾の干潟消滅や干潟二枚貝類の減少は、海域の浄化力を減少させたと考えられる。また、干潟以外の湾全体のベントス量変化も、湾の浄化力変化をもたらしたと考えられ、湾全体の環境変化の理解において、ベントス現存量変化を重視した検証が必要である。
 まず、諫早湾の締め切りによって失われた浄化力を推定する必要がある。堤防内にかつて存在したベントスのデータを整理し、また干陸化された干潟表面に露出した二枚貝類の殻などからの干陸前現存量の算出結果も加味したうえでベントス現存量を算定し、鈴木ほか(2000)の方法を用いれば、失われた浄化力を見積もることが可能である。また、有明海のアサリ、アゲマキ、タイラギなど漁獲量の変化からも浄化力変化を見積もることが可能である。例えば、門谷(未発表)は、有明海のアサリの浄化力は70年代後半には窒素にして1日当たり約10トンあったが、90年代後半にはこの浄化力は失われたと試算し、アサリのノリ漁場に対する重要性を指摘している。したがって、上述した東のデータのほか、県の水産試験場や長崎大学関係者などが持っているデータを全面的に掘り起こし、有明海全体のベントスによる有機物取り込みの動向、さらにこれらと赤潮発生の関係について解析する必要がある。

 ・現地観測
 全湾にわたるベントスの季節毎の分布調査を行うことが必要である。このなかで、ベントス生息状況と貧酸素水や底質との関係を重視する必要がある。そのうえで、既往資料と比較して経年変化を割り出し、ベントスの減少と水質環境変化の関係を見ることも必要である。

(6)有明海の物質循環特性の把握

 閉鎖性内湾である東京湾、伊勢・三河湾、大阪湾については、貧酸素水塊の形成機構や窒素・リンなどの物質循環に関する研究が行われ、富栄養化対策などが検討されてきた(例えば、日本水産資源保護協会 1989)。しかし、有明海ではそのような調査研究は今だなされていない。このような調査研究は環境劣化要因解明に寄与するだけでなく、将来の有明海の保全と利用を検討するうえで必須な研究である。この研究はおそらく既往資料のみでは難しく、科学的研究設計に基づくあらたな調査が必要である。
 また、干潟の物質循環と浄化力、生物生産力の把握も必要である。有明海には佐賀県沿岸や諫早湾のような泥質のガタ干潟と熊本県沿岸のような砂質干潟が存在する。今まで研究がなされてきた三河湾一色干潟、東京湾三番瀬や盤洲干潟はいずれも砂質干潟であり、ガタ干潟の浄化機能に関する研究は立ち遅れている。ガタ干潟での早急なる調査研究が必要である。

6. 諫早湾干拓事業アセスメントの見直し

 諫早湾干拓事業アセスメントに関しては、1986年7月に九洲農政局から出た「諫早湾干拓事業計画に係わる環境影響調査書」(一次アセスメント)と1992年に出されたもの(二次アセスメント)がある(東 1999)。これらでは「有明海に対してはほとんど影響を及ぼすことはないものと考えられる」と述べられている。しかし諫早湾干拓事業に関しての佐賀県の依頼による日本資源保護協会(1979)の報告書(いわゆる佐賀アセス)では、今回の締め切りと異なって諫早湾全域を締め切ることに対する評価ではあるが、「諌早湾は漁業生物の再生産の場として重要でその消滅は湾の漁業資源に大きな影響を与える」と述べている。したがって、諫早湾の漁業資源再生産場としての再評価も重要である。
 1999年に施行された環境影響評価法いわゆる環境アセスメント法では、環境アセスメントは開発と環境保全をめぐる議論をとおしての社会的合意形成のための手段と位置づけている。そのために、科学的手法による合理性の高い検討結果と、事後調査によるその結果の再評価が求められる。環境アセスメントの制度向上と社会的信頼の獲得のため、新たなデータや知見が得られたなかで今回の諫早湾干拓事業アセスメントの結論についての再検証の必要がある。

7. 諫早湾潮受け堤防水門開放調査と干潟の復活

 すでに述べたように、諫早湾干拓事業はベントスの大量喪失と潮位・潮流の変化を余儀なくさせることから、有明海環境悪化の要因となっている可能性は否めない。したがって、潮受け堤防水門の開門を伴う、諫早湾の環境修復は重要な検討課題である。しかし、すでに汚濁した調整池からの有明海への急激な流水、ならびに狭い水門を通しての強い流れによる海岸や海底の浸食による環境悪化も懸念され、防災上の問題を指摘する声もある。水門を開けた場合の環境への負の影響の最小化、また長期的には新たな水門建築を含めどのような海水交換方法を採れば最大の環境回復効果が期待されるのか等、防災面からも考慮したうえでの検討が必要である。
 また、干陸化された干潟面は乾燥固化しもしくは人為的改造がなされており、周囲は堤防造成工事が進行している。干潟に修復するには、底質環境復活の短期化と最良化に向けてこれら改変された底質や地形の事前修復の検討も必要である。

引用文献

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東 幹夫(2000):2000年度日本海洋学会秋期大会講演要旨.
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(とりまとめ 風呂田利夫、東邦大学理学部;佐々木克之、水産庁中央水産研究所;松川康夫、水産庁中央水産研究所)